都市の哲学 田村敏久・著

街路と歩行の関係をさぐるまえに、人間の場所について、場所の察知の機構を明らかにしておく必要があります。

人間は見ることによって一挙に場所を察知できるのは、どのような機構によっているのか。もちろん、実際にそこで動き回ることが場所の形態を知るためのもっとも確実な方法であるのはまちがいありませんが、そのときでも見る働きが第一の役割をになっているわけですから、見ることによって場所を察知する意味の重要性が薄れるわけではありません。とにかく見ることによって場所を察知しなければ、私たちは場所を根城にして生きていくことができないのであり、それはつまり、私たちは自分の生を支えられないということです。したがって、場所を察知する内容を正確に知ることはすなわち、私たち自身をよく知ることにほかなりませんし、場所の構成を実践の目標にすえるなら、それは不可欠です。

場所の察知の機構に触れるためには場所の察知そのものの内容がまず問題になります。場所を察知することの中身が十分に明らかにされていなければ、その機構も十分に明らかにされることがないからです。私たちは簡単に場所の察知といいましたが、そもそも場所を察知するとはどういうことなのでしょうか。

ともかく場所の察知について、つぎのようにいってまちがいではないと思います。場所を察知するとは場所の構造を把握することである、と。場所の構造という、また別の言い方が出てきてしまいましたが、場所の構造とは、構造という表現のごく標準的な使い方で規定されるところの、場所の成り立ち、組み立てのことです。いま、場所の構造という言い方でしめされる場所のありさまを空間とよぶことにします。空間も私たちにとって耳慣れた、しかし指示する実体がはっきりしない表現ですが、ここでの空間とは構造として捉えられた場所のことであり、より具体的には立体的なすがたで現出している場所のことです。

こうして、場所の察知は空間の構造を把握することであり、空間の構造の把握とは、空間の構造を現場にいる人間が感覚して知ることであるということができます。そこで、現場の人間がどのような方法で空間の構造を感覚し、知ることができるかを調べるには、あらかじめ空間の客観的な構造を明らかにしておくことが必要です。

では空間はいかなる構造をしているでしょうか。大上段に構えていては、まるで雲をつかむような話ですので、ここは私たちの具体的な現実を足掛かりにして話を展開していかなければなりません。空間は私たちによって経験されてはじめて意味があるのである以上、それはまたもっともよい方法でもあるはずです。

それなら私たちにとって空間とよべるもっとも普遍的な場所はどこでしょうか。もちろん、それは部屋とよばれる建物の内部空間です。私たちは都市であろうと山村であろうと建物の内部空間なくして生活を組み立てることができません。

空間の構造を知る第一の方法は部屋の構造を調べることです。

 

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