写真をご覧いただくまえに一言
自動車のいない街とはヴェネツィアのことである。ボローニャ滞在中(1982年)、急きょ予定を変更してそのヴェネツィアに行ってきた。ボローニャから急行で2時間余り、午前8時に出発してわずか6時間弱の滞在、おまけにこの日は日曜で大方の商店は休み、というわけでろくな写真はない。そもそも千年以上の歴史のうえに存在している都市を数時間で知るなんてことは不可能だ。何本の街路を歩いただろうか、地図から測れば全体の万分の一程度かもしれない。しかし、酷暑に疲弊しながらも無理して行ってよかったと思っている。静寂のなかに人のざわめきがなまめかしく響いて、街全体が人間の体温で暖められて呼吸しているさまは、自動車の熱気にあおられ悲鳴をあげている都市から訪れた者としては、神々しくさえ思えたものだ。この感じは写真よりも地図——図柄としてみたヴェネツィア市街地の地図によく現われているように思う。地図上に示された街路のネットワークの多彩さはただごとではない。この驚くべき多彩さは、すなわち歩く人間の多彩さに直結している。人間、その存在の不思議さよ、と思わず言いたくなる。
ヴェネツィア〜googleマップ
ヴェネツィアのアルバム album of Venezia
撮影:1982年8月15日(日)