ボンネルフとは〜写真をご覧いただくまえに
アムステルダムの南西60kmに位置するデルフトは陶器の町として有名らしいが、現在では神秘の画家フェルメールの出生地といったほうが通りがいいかもしれない。他方、街路の形態に興味のある者にとっては「デルフトのボンネルフ」としてよく知られている。ボンネルフ(またはボンエルフ)とはオランダ語で Woonerf と表記、「生活の庭」を意味する。ボンネルフがわが国でも注目されたのは、当然のことながらそのユニークな街路の形態にあったわけだが、ボンネルフの特徴を列挙すれば次のようになる。
- 対象は住宅地区の街路
- 自動車と歩行者の混合による共存を目指す
- そのために路面の仕上げに工夫をこらす
混合による共存とは、単純に歩道と車道に分離するのではなく、一本の街路を共有しながら相互の安全と利便を確保するということであって、街路での自動車の動き(スピード、走行経路、駐車位置等)を物理的に制御して、歩行者に注意を促しつつも、街路での歩行者の自由な往来を妨げない、というのがその基本的な考え方である。
自動車の動きを物理的に制御する方法がいかなるものかは下の写真をご覧いただくことにして、ここで結論めいたことを書くのは早計にすぎるかもしれないが、わが国でコミュニティ道路などいう名称のもと、その猿真似が横行している事実を見るにつけ、やるせない思いがつのってくるのを禁じえない。
デルフトは実に美しい町だ。美しいだけでなく、都市生活を愛し楽しみ、都市という共同体を長い年月をかけて着実に築き上げてきているのは、地図をながめ、町中を数時間歩いただけではっきり伝わってくる。何を言いたいか、つまりこうした土壌ではじめてボンネルフが有用なものとして意味を持っているということ。写真をご覧なればわかるように、正直なところボンネルフといっても映像としてははなはだ印象深さに欠けるところがあって、むしろ床面の細々した処理が煩雑さを感じさせよう。実際、建物なら床に段差をつけたり、突起物をつくるなんてことは、普通の場合起こりえないはずなのだ。
つまり、コミュニティ道路のようなものがわが国の都市が目指すべき対象であるのかどうか、根底からの検討が求められているということである。ここで見るべきは、古い建物に傷をつけてまで駐車場をつくるなんてもっての外と考えた、最上級の都市生活者であるデルフト市民が、いかにして自動車利用と折り合いをつけたのかであり、そこに都市に生活する人間の創意と工夫と実践の跡をはっきりたどることができるはずである。
*1982年に写真に収めたボンネルフの場所を、下記のgoogleマップに青線で示しておきました。(こんなことも出来てしまうgoogleマップはすごいです。)
デルフト〜googleマップ
デルフトのアルバム
撮影:1982年8月6日(金)