街路研究会|都市研究ノーリッジ

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写真をご覧いただくまえに

 都市を論じるにあたって、都市の全体を、いわば神の目で見るように把握できないことの不可能性を真剣に考えた学者もどきがいたが、この当たり前の事実を真剣に受け取ると人間は都市を扱えないということになってしまって、身動きが取れなくなる。でもどこか変だ。都市を造っているのは人間にほかならないから。人間てやつは考えすぎというところがどうしても出てきて、これなんかその典型的な愚問というべきだろう。僕なら、生身の人間が捉えるひとつの現場が都市なのであり、そこにこだわる以外に都市を語る方法はありえない、と言い切ってしまう。正直、完全な自信があるわけじゃないけど。最善の方法は、そう一旦腹を決めてかかること、そのうえで人間が都市を把握することの限界に思いを致して、謙虚に都市の全体を構想するということになるんじゃなかろうか。結局、われわれの想像力が都市をつくっているんです。
 ノーリッジは美しい。たんに美しいだけでなく知性を感じさせる珍しい町だ。ここに載せた写真は、別にアングルに凝ったものではないが、それでも一枚一枚がちゃんと絵になっている。ノーリッジの都市としての類い稀な品性が、日常の市民活動とともに、実現された多くの方策によってもたらされているのは明らかだとしても、実践がただ実践としてあると見るのは早計だ。実践は哲学がもたらすのであり、哲学なくして実践はありえない。断定調に不審をいだかれれる方は、人間はしようと思ったことしかできないという事実を反省してみてください。ノーリッジの哲学がいかなるものか、市が作成したロンドン通りの報告書である「ノーリッジ・歩行者道路の創出 1969年」の一部を下段に掲載したのでご覧いただきたい。この数十年間わが国の各都市でつくられた同種のそれらが、実践とは無関係に言葉をもてあそんでいるのと比較するまでもなく、ここには力に満ちた論理の清澄な流れがある。

「ノーリッジ・歩行者道路の創出1969年」(抄訳)〜ノーリッジ市作成

Lon_repoet.jpg序言
1.01
 イギリスの道路交通はおよそ年7%の割合で増加しており、この急激な成長の結果はわれわれの多くの道路、特に市街地の道路の混雑状態に顕著である。無制限の資金が道路の建設や改造のばく大な計画に利用できるのだとしても、それは解決をもたらさないであろう。それは道路空間を利用しようとして増加するより多くの自動車の終わりのない螺旋をつくるにすぎず、道路はまた混雑してくる。パーキンソン教授の言葉を言い替えるなら、自動車は利用できる道路スペースを満たすように増殖するのである。加えて、より幅の広い、そして多数の道路をわれわれの多くの町や都市の堅く引き締まった構造のなかに押し込むことは、市街地の環境に深刻な悪化をもたらすであろう。

1.02
 ノーリッジのような歴史を持った都市は特に傷つけられやすく、限度のない自動車利用を満足させるために、これまで築き上げてきた建築的・歴史的な性格を犠牲にするなど、考えるのも不可能であろう。

1.03
 最近の道路財政の制限にともない、多くの地方当局は月並みの交通処理施策を講じることによって、短期的な解決を求めようとしてきた。しかしながら、駐車禁止道路や一方通行のような手段が、都市部を通過する交通の速度を増すことにより、すべての運転手の状況を改善をするかもしれない一方で、それは歩行者や都市の物理的な外観を犠牲にしているのが普通である。さらにまた、この種の交通処理策が大都市の買物地区の経済に損害を与え、特徴的な地区の保護を妨げている形跡がある。環境への考慮は交通処理の施策では無視されるのが通例だが、これは特に歴史的都市において深刻な突っ返しをもたらすとも限らない。より満足できる解決への道は、慣例の交通処理策に代って、環境管理策を用いることである。

1.04
 粗野な容量——物理的に通行可能な最大の自動車数——に対して計画するのではなく、われわれは受容可能な環境基準を保持しながら、街路での許容交通の量と形態の限界を指示する環境容量を用いる。歩行者はこの方程式においてきわめて重要な要素でなければならず、ある場合には一般車両のすべてを街路から排除することがありうるほどに優位を占めるであろう。

1.05
 自動車と歩行者の最大の集中が起こっているのは、高密度に発達してきた都心部である。しばしば幹線道路と買物通りという相反する役目を演じるよう要請される伝統的な都心部の買物通りでは、その両者の衝突は最高点に達している。多くの都市において、状況は歩行者にとって我慢の限界点に早急に向かっており、もし買物客の状況改善のために何もなされないなら、イギリス全土にわたって都心部における相当な経済的衰退がもたらされるきわめて現実的な恐れがある。

1.06
 自動車の所有と利用の量でヨーロッパをはるかに凌ぐアメリカ合衆国では、その答えは郊外のショッピング・センターの開発に求められた。これはなによりもまず良好な駐車場と道路アクセスを用意することによって、自動車利用の買物客を満足させた。広範な買物、サービス、生活施設を結びつける良いアクセスの提供が、郊外型センターの成功を確実なものとしたわけであるが、既成市街地の買物地区は大変な悪化を経験することとなった。そのため、郊外型ショッピング・センターはヨーロッパ諸都市が直面している問題を解決しないとの認識が形成され、多くの都市計画家は、歩行者と自動車の分離を、増加し続ける交通渋滞によって引き起こされた傷害の唯一の治療方法として主張することとなった。

1.07
 コベントリーにおけるそれのように、自動車交通から開放された新しい買物専用区域がイギリスの多くの町や都市でつくられたが、これらの場合では、サービスとアクセスの問題を全体計画のなかで解決しようとして広範囲の改造がおこなわれた。裏道からのアクセスがしばしば不可能な既成の買物通りを扱う場合には、問題はより先鋭化してくる。これはとりわけノーリッジのような歴史的都市に起こる問題であり、そこにアクセス用の裏道を無差別に挿入するなら、中世の凝縮された街路構造のユニークな性格は回復不能なまでに損傷されるであろう。

1.08
 大多数の計画当局は既成の都心部で歩行者と自動車を分離する必要性を認め、歩行者専用の買物通りの計画を準備した。しかしながら、自動車が買物地区を走り回ることが許されないなら商売はだめになると信じる商店主の反対に直面して、多くの提案は棚上げされ、イギリスではなにごとも成し遂げられなかった。

1.09
 その見せかけの問題点を試すために現実の実験が必要とされ、ここで大陸の賢明ないくつかの都市から手本が引き出された。ドイツでは特に、商工会議所が歩行者専用の買物通りの実験を始め、実際に売上げと買物環境の両面で改善を示すという偉大な成功を証明したのである。背後からのサービス便宜の欠如は、賢明かつ適切な時間帯に配達が許され、商人の特殊な問題にからむ固有の要求に当然の配慮がなされるならば、歩行者専用の買物通りを作りだすうえで越えらえない障害とはならないことが明らかにされた。

1.10
 歩行者専用道路の創出によって生じる問題点を調査するため、コペンハーゲン、エッセン、デュッセルドルフ、ケルンの諸都市における実例をもとに細部にわたる研究が行われた。

1.11
 その結果、われわれは、商売方式やサービス方法、また他の面が、この国に発見されるそれらと同様である以上、ノーリッジにおいて歩行者専用道路を実験すべきでない理由はどこにもないという結論に達したのである。

ノーリッジ市ロンドン通り平面図

ノーリッジ〜googleマップ


ノーリッジのアルバム
撮影:1982年8月2日(月)と3日(火)

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